
環境省統計データから読み解く20年間の推移と残された課題
「殺処分ゼロ」という言葉が社会に浸透して久しい。しかし、このスローガンの裏側にある数字を正確に把握している人はどれほどいるだろうか。環境省が毎年公表する「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」は、日本における動物行政の最も基礎的なデータセットである。本稿では、このデータを時系列で分析し、日本の保護犬猫を取り巻く構造的課題を明らかにする。都道府県別の詳細データは日本データマップで確認できる。
2024年度の犬猫殺処分数は合計6,830頭(犬1,964頭、猫4,866頭)であった。前年度の9,017頭から約24%の減少であり、2023年度に初めて1万頭を下回ったのに続く大幅な改善である。2004年度には犬猫合わせて約39万4千頭が殺処分されていたことを考えると、20年間で約97%の減少を達成したことになる。
犬猫殺処分数の推移(環境省統計)
出典:環境省「動物愛護管理行政事務提要」各年度版
この劇的な減少の背景には、2013年の改正動物愛護管理法の施行がある。同法により「終生飼養」の責務が明文化され、自治体が安易な引取りを拒否できるようになった。また、全国の動物愛護団体やボランティアによる譲渡活動の拡大も大きく寄与している。
2024年度の犬猫引取り数
出典:環境省統計
殺処分数が減少する一方で、行政による犬猫の引取り数は依然として高い水準にある。2024年度は39,409頭が全国の動物愛護センター等に引き取られた。引取りの内訳を見ると、「所有者不明」が大半を占めるが、飼い主からの持ち込みも一定数存在する。
飼い主からの持ち込み理由として多いのは、「飼い主の病気・傷病等(32.21%)」「転居(10.07%)」「離婚(8.05%)」などである。一方で「トイレを覚えない」「鳴き声がうるさい」「子供が飽きた」といった、動物の特性に対する理解不足に起因する理由も報告されている。
殺処分される動物の約7割は猫である。2024年度のデータでも、犬1,964頭に対し猫は4,866頭と2.5倍の開きがある。この背景には、野良猫の繁殖管理の難しさがある。猫は年に2〜3回出産が可能で、1回に4〜8匹の子猫を産む。不妊去勢手術が行き届かない地域では、急速に個体数が増加する。
殺処分数の減少は確かに大きな前進である。しかし、引取り数が依然として年間約4万頭に上る現実は、「入口」の問題—すなわち安易な飼育開始と飼育放棄—が根本的に解決されていないことを示している。
— 公益財団法人動物環境・福祉協会Eva
矢野経済研究所の調査によると、2024年度の日本のペット関連総市場規模は1兆9,108億円(前年度比102.6%)に達した。これほど多くの人がペットとの暮らしを望んでいる中、「保護犬猫を迎える」という選択肢の認知度をさらに高めていくことが重要である。
動物を迎える際には、15年〜20年にわたる飼育責任と金銭的負担への理解が不可欠である。浜野佐代子氏の研究(2017年)では、飼育放棄の主な要因として「飼い主の知識不足」が指摘されている。どのような経路で動物を迎えるにせよ、事前の情報収集と終生飼養の覚悟が重要である。
殺処分数の97%減少は、日本社会が動物福祉に対する意識を着実に高めてきた証左である。しかし、真の「殺処分ゼロ」を達成するためには、出口(殺処分の削減)だけでなく、入口(安易な飼育開始の抑制)と中間(適正飼養の支援)の三位一体の取り組みが不可欠である。世界の動物福祉データと比較すると、日本の現在地がより明確になる。データは、私たちがまだ道半ばにいることを静かに、しかし明確に示している。

記事監修
獣医師 / 株式会社Buddies CEO
東京大学農学部獣医学専修卒。臨床獣医師・ペット栄養学講師。タイ・ベトナムでの獣医ボランティア、ウガンダ国立遺伝資源研究所でのリサーチフェローを経て、保護犬の犬材派遣会社・株式会社Buddiesを設立。女性起業チャレンジ大賞グランプリ受賞。NHK『おはよう日本』出演。
プロフィールを見る →